誕生日記念小説 シリーズ「とある休日」
第2話「綾崎若菜」
| ……ふと、目が覚める。 まだ覚めきっていない頭で、昨日の事を思い出す。 「ごめん、明日いけなくなっちゃったんだ……。」 ……そうだ……今日はあの方は来られなくなってしまったんだ……。 手持ち無沙汰になった私は、街を散策しようと考えた。 誕生日記念小説 シリーズ「とある休日」 第2話「綾崎若菜」 少し寝ぐせのついた髪を梳かし、身支度を済ませ、居間へ入る。 居間には、お爺さまがいらっしゃった。 「おはようございます。」 「おはよう。」 お爺さまは、既に朝食を終えられて、朝食を取っていないのは私だけだった。 お父さまとお母さまは、既に出かけられた後だった。 「若菜、今日はどうするのじゃ?」 「はい、今日は東山を散策しようかと思っております。」 「そうか、気をつけていくんじゃぞ。」 「はい。」 朝食を取り、私は外へ出る。 外では、中島さんが車の準備をしてくれていた。 「中島さん、おはようございます。」 「おはようございます、若菜お嬢様。お車の準備は出来ておりますよ。」 「わかりました、それでは準備してまいりますので。」 「畏まりました。」 そういって、私は部屋へ戻った。 「どうせなら。」と思い、私は普段のスカートをやめて、こっそり買っておいたジー ンズをはいてみる。 そして、長い髪を三つ編みにしてみた。 鏡で服装をチェックする。 普段の私とは、似ても似つかない格好で、ちょっと恥ずかしい……。 身支度も終わり、玄関へ向かう。 玄関の外では中島さんが待っていてくれた。 「すみません、お待たせいたしました。」 中島さんは、一瞬驚いたが、すぐにいつものたおやかな笑顔になった。 「さ、どうぞ。」 そういって、中島さんは車のドアを開けた。 私と中島さんが乗り込み、ゆっくりと車が動き出した。 「…………中島さん。」 「……どうされましたか?」 車中で、私は中島さんに昨日の夜のことを話した。 ハンドルを切りながら、中島さんは静かに聞いてくれた。 「……そうですか。」 と、一言だけ中島さんが言うと、車内は静寂に包まれた。 しばらくすると、車は京都駅に着き、私は車から降りた。 車から降りて、中島さんが私にある提案をした。 「今日は、お一人で京都を散策されてはどうでしょう?」 「えっ?」 突然のことで、私は驚くが、 中島さんはにっこりと微笑んだ。 「ええ、いつも私の車で行くところだけではなく、 お嬢様が自分で見つけられてみてはいかがでしょうか?」 ……普段、私はあの方や中島さん任せで、京都の街を歩いているけど、 私だけで歩いたことは無かった。 そう思うと、私は何故かわくわくしてきた。 「そうですね、そうします!」 「そうですか、それじゃ少々お待ちください。」 そう言うと、中島さんはサイドシートに置いてあった小さなリュックを、私に手渡し た。 「今日はこれをお使いください。もしもお困りの事がございましたら、 中に入っている携帯電話で、ご連絡いただければどこでも、参上しますので。」 「わかりました、それでは。」 私は中島さんに一礼して、案内所へと入っていった。 今日は日曜日で、案内所は混雑していた。 ところどころで、京都の言葉とは違う言葉が聞けて、すこし新鮮だった。 「すみません……京都を散策したいのですが……」 窓口の女性に聞くと、親切に教えてくれた。 市内を散策するのなら、1日乗車券というものを買った方が便利だということ。 これを使うと、市内を走っているバスや地下鉄などが、1日乗り降りが自由なのだそ うだ。 私はこの1日乗車券を買い求めた。 そうすると、バスの経路が詳しく書いてあるマップも頂いた。 マップには京都のお寺や名所などへの行き方が、こと細かく書いてあり、 はじめてバスに乗られる方でも、わかりやすくなっていた。 「どうしましょう……。」 私はそのマップを見ながら、どこに行こうか悩んでいた。 私が行きなれているお寺も、バスで行くと乗換えをしなければいけない。 でも、ここでぼーっとしても仕方ないと思って、私はふっと目に止まったバスに乗り 込む。 乗ったバスの行き先には「28嵐山・大覚寺」と書かれてあった。 自分でマップを見て、自分で行きたいところを決める。 本来なら、ごく当たり前なことなのだけど、私にとっては大冒険であった。 バスに揺られてしばらくすると、バスは嵐山に入った。 京都駅を出てからあっという間と感じていたのだけど、実際には1時間ほどバスに 乗っていた。 嵐山のバス停で降りて、私は軽く伸びをする。 渡月橋の袂では、河原で涼を求める人や、嵯峨野へ散策する人がごった返し、 さらにお土産物屋さんの威勢のいいかけ声で、とても賑やかになる。 でも、何か少し違う気がする。 今日は、この喧騒が心地よく、しかし淋しく聞こえる。 ……そう……今日はあの方とこの街を歩くはずだった……。 不意にそのことを思い出してしまう。 でも、私の我侭であの方を困らせてはいけない……。 私は迷いを払うかのように、両手で頬をぱしぱしと叩き、渡月橋の方へ歩き出した。 橋の欄干から川の流れを眺めていると、ボートに乗るカップルの姿が目に入ってき た。 「そういえば……あなたと再会して、初めてのデートも嵐山でしたね……。」 と呟く。 ボートに乗っている二人は、遠くから見ても幸せそうに見える。 その姿に私達の姿を重ねてみた。 でも、それは淋しさを紛らわしたいだけ……。 あの方に逢えないという現実から、逃げたいだけ。 ……私だって、いつまでも待っていられませんよ。 私も……貴方に…………甘えていたいんです。 ……貴方に逢えないと、すごく切ないんです。 だから、少しだけ…………ほんの少しだけ……我侭を言っても、いいですか? ……そうだ、今度こられた時に、あの方に教えてあげよう。 京都は一年中来ると、もっといいですよ。 って。 |
〜榊 晶さんあとがき
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| うわー!!やっちまったー!! 若菜の服装がぁ〜……口調がぁ〜……。(爆) 若菜の口調にはすごく気を使ったのだけど、モノローグになると、ぼろぼろです ね……。 ちょっとだけ我侭になろうと思った若菜さんです。(笑) こんなの若菜じゃなーい!! ……ごめんなさい(平伏) それでは、来月の 第3話「遠藤晶」でお会いしましょう。 榊 晶拝 |
| 彼女の心境がよく伝わってくるお話ですね。 たまには弱いところを見せるのも、人間らしくてよいと思います。 |
