〜 陽だまりの中 〜







「……また来ちゃったな…。」

僕は横浜駅の改札口に立っていた。
仕事場から近いのもあって、僕はよく横浜へ足を運ぶ。

「……さて、ここでぼけっと突っ立ているのもなんだし……行くか。」

この日は日曜日ということもあり、普段以上の人が歩いていた。
そんな人垣を縫って、バスターミナルへとやってくる。

もう、何度やってきたか分からないバスターミナルのこの乗り場。
もう、何度乗ったか分からない同じ系統のバス。

さっそく乗り込み、座席へと腰掛ける。
乗客は僕のほか7人程度、思っていたより空いていた。

ふと降り立った、横浜という地。

単なる偶然なのだろうか。

それとも、運命なのだろうか。

そんなことを考えつつ、僕はバスの動きに身を任せた。

















「陽だまりの中」


















 バスはターミナルを出て、大通りをゆっくり進んでゆく。
車窓から見た空は灰色の雲に包まれ、その空を見るだけでも肌寒く感じる。



途中、いつもの経路とは違うことを伝える放送が入る。

「……あれ?今日は公園のそばを通らないのか……。」

どうやら、今日は休日ダイヤということで、少し離れた大通りを進むらしい。

「まぁ、それもあり…か。」





山下公園の近くのバス停で降り、公園へと向かう。
風が少し吹いていて余計に寒く、僕は背を丸めて歩く。

公園の正面に近づくと、なにやら人垣ができているようだ。
時折、火のようなものが見える、大道芸でもやっているのだろう。

「……ゆっくり出来そうもないか……無視して行こう。」

交差点を右に曲がり、山下公園をやり過ごす。



銀杏並木をぶらぶらと歩いていると、



「およっ?」

と、どこかで聞いたことのある声を聴く。

声の方向に振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。

「あれっ?星野!?」
「うわぁ〜久しぶり〜。元気だったぁ?」

星野に会うのは、実に2年ぶりだった。
ショートカットだった髪は、今ではセミロングほどの長さになっていて、
少女の面影は残っているものの、どこか精錬された大人の女性の雰囲気を醸し出して
いた。

「なんとか……ね、星野も元気そうだね。」
「あったりまえじゃん!バリバリ元気だよぉ。」

でも、言葉遣いなどは昔のままで、少しほっとした。

「ねねね、あなたは今暇?」
「まぁね、山手の界隈散策して帰るつもりだったから。」
「じゃ、これから一緒に回ろうよ!」
「いいね、久しぶりに!」
「そんじゃ、レッツゴー!」
そう言うと明日香は僕の腕をぐんぐん引っ張ってゆく。

「うわぁぁ、ちょっと待ってぇぇ……」

そんな僕の声は虚しく響きわたった……。











「そういえば、今は何やっているの?」
「私?今ね、DJやってるんだぁ。」
「DJ?」
「そう、週1回深夜のラジオ番組、聞いていないなんて言わせないよぉ。」
「うーん…ラジオはあまり聞かないからなぁ…、それに早く寝ちゃうし…。」
「こらぁ、ちゃんと聞きなさい!」
「機会があったら…ね。」
「だめ、絶対。」
「……わかりました。」
「分かればよろしい!」


そんなことを話しているうちに、元町商店街の入口へとやってきた。
「ふへー……相変わらず賑やかだなぁ……。」
「そうだねぇ、特に今日は日曜日だからね。」
僕達は商店街の店舗をひやかしつつ、1時間くらいかけて商店街を歩いていった。

 元町商店街を抜け、麦田トンネルに差し掛かる手前に、細い路地がある。
明日香曰く、学校への地獄の抜け道というらしい。

「……で、何で地獄の抜け道なの?」
「行ってみれば分かるよ。」

普通なら、地獄なんていう異名なんてつかないはずなのに…。

……でも、その謎は行ってみて本当に分かった。

「……たしかに、コレを走れば地獄だね……。」
「でっしょぉ?これを駆け上っていくから、地獄なのよ。」

そこは、急な上り階段で、その後がこれまた急な上り坂になっている。
その坂を登りきったところに、明日香の通っていた清華女子高校がある。
僕も一度だけこの高校に来たことがある。
その時は石川町駅の方から来たので、分からなかった。
まさに通学者だけが知っている抜け道なのだろう。

校門の前を通り過ぎ、外人墓地へと続く道を歩く。
歩道がせまく、時折対向してくる人を明日香をかばいつつ歩く。

しばらく歩くとやがて、外人墓地が見え、それをすぎると港の見える丘公園にたどり
着く。

「ねぇ……覚えてる?ここ……」
「まぁ、ね…。」

この公園は、明日香が僕に本当の気持ちを伝えた場所。

忘れるわけが無い。

近くのベンチに腰掛け、ベイブリッジを見遣る。







3年前の春。

一通の手紙が、家のポストに入っていた。 差出人の名前はなく、

 あなたに逢いたい

とだけ書かれた手紙。

僕はその時、不意に星野のことが頭の中をよぎった。
次の日、僕は星野と再会した。

最初はナンパと間違えられて、ケーキセットを追加させられそうになったけど……。

その1年は星野と一緒に遊んでいた。
4年間のブランクを埋めるかのように、毎週末は星野と会っていた。

昔のように遊んでいたはずだった。

でも、6年前とは何かが違うと感じ始めた。


それが具体的に分かったのは、2年前の春。


突然星野から手紙が来た。



 どうしても、あなたに伝えたいことがあります。
 港の見える丘公園へきてください。



その訳は明日香からの告白だった。
差出人のない手紙を出したのは私だった。
そして、私はあなたがずっと好きだった、と。

 僕は戸惑った。
どうしていいのか分からなかった。
友達のはずだったのが、好きだと言われ、僕は混乱していた。
その時に出した答えが

「……すこし、時間が欲しい。」

という、実に曖昧なものだった。
その一言を残し、僕はこの公園を後にした。


 そして、自分の身の回りが忙しくなり、ついに2年が経ってしまった。
僕は、完全に明日香に連絡を取るタイミングを失っていた。
たまに昔住んでいた横浜が懐かしくなり、ふらっと出向いたりしていた。

そして、今日2年ぶりに明日香に再会した。



「……私ね、いまでもあなたの事が……好き……。」
「……」

明日香は、途切れ途切れに想いを言う。
2年経っても、彼女の想いは色褪せる事はなかった。




僕は




「あっ……」




明日香を抱きしめた。

「僕も2年間……明日香の事を忘れることはなかったんだよ。」
僕の言葉が続く。
明日香はじっと聞きつづけていた。

「あの時は、明日香の事を遊び友達としか思えなかった。」

「だから、突然告白されて……正直戸惑ったよ。」

「自分の気持ちに整理をつけようとおもって、あの時はそう答えた。」

「……僕も明日香の事が好きだ。」

そう言うと、明日香は僕の顔をはっと見た。

「自分の気持ち整理しても、この気持ちだけは変わらなかった。」



「ありがとう……」
明日香の頬に一筋の道が通る。

「私のこと、忘れちゃったのかなぁ……って思ったこともあった。2年間……私には
長すぎたよ……。」

俯きながら話す明日香。
すぐ、ぱっと顔を上げた。

満面の笑みとともに。

「ラジオでも、よくあなたのことを言ってたんだよ。」

そんな明日香の顔は、僕の大好きな元気な明日香だった。

「でも、聞いていないんだもんねぇ……」
「うっ……ごめん。」
「あははっ、でもこれからはちゃんと聞いてよね!」
「分かったよ。」
「ホントだよ?」
「ああ。」

そう言うと、明日香は僕の胸に顔を押し当てた。

「……もう、私を置いていかないでね。」

僕の胸の中にいる明日香は、最後に呟いた。






















「……約束だからね。」



<Story Over>





榊 晶さんあとがき

あとがき
というわけで、なんとか書き上げました。

ちなみにこれ、元々は大晦日のお話なんですよ。
おかげでかなり手直しをせざるを得なかったです。(笑)

ちなみに、「僕」の明日香への呼び方の変化はチェキ!です。

それでは。









今回のお話では、二人の間にかなりの時が過ぎているんですね。
告白があってHappyEndかとおもいきや、そうでなかったので驚きました。
燃え上がる恋もよいですが、たまにはこういうのもよいですね。

大人なんだか子供なんだかよく分からない明日香、
本当の彼女はどっちなんでしょうか?





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