〜 エンゲージリング 〜



安達妙子誕生日記念SS「Engage」


「……帰ってきたんだなぁ…。」
6年ぶりに降り立った青森の地は、雪に覆われていて痛いくらいに寒かった。

俺が大学進学のために上京して6年が経ったある日、
幼なじみの妙子から手紙が来た。


なんでも、アイツと結婚するらしい。


 アイツというのは、妙子の幼なじみのことで、俺も知っている。
俺の実家は妙子の家の近くで、小学校入学から妙子とは腐れ縁だった。
そういえば小学校中学年の頃、
あいつら二人して「安達夫婦」って囃し立てられていたけど、
……まさか、本当に夫婦になるとはな…。

 ちょっと昔の事を思い出しつつ、新町通りを歩く。

実家に帰る前に、安達酒店に寄っていく。
……さぁて、今晩は何を飲もうかな…。

「いらっしゃいませ」

と、ここでは珍しく若い店員の声がする。

「…あれ?もしかして、けん?」

あれっ?でも何で俺の名前を知ってるんだ?

「あっ、ちょっと待ってて、妙子〜」
と、店の奥に向かって妙子の名前を呼ぶ。



『何よぉ…忙しい・・・って、けんちゃん!?』
「よっ!久しぶり。」

店の奥から、エプロン姿の妙子がやってきた。
6年ぶりに再会した妙子は、そばかすとか振り分け髪は昔のままで、
ちょっとだけ(本当にちょっとだけ)大人の女性っぽくなっていた。

「でも妙子はともかく、なんで俺の名前がわかったんだ?」
「忘れるわけないよ、昔さんざん遊んだ仲だからね。」
『ほらっ!そんなとこにつったってないで、上がって!』

と、強引に妙子に腕を引っ張られる。

「おい!んなことしたら腕が抜けるだろ!」
……といっても無駄だった。
俺は妙子に腕を引っ張られ、アイツに背中を押され、安達家の中に連行された。





『手紙ちゃんと読んでくれたんだ。』

お茶を淹れながら話してくる妙子、俺はこたつに入って暖を取る。
アイツは店番に戻っていった。

「ったりめーだろ?あんな手紙がくれば読まないわけないだろ?」
『それに、けんちゃんなら、仕事休んででも絶対に来てくれると思ってた。』

うっ……バレバレですかい…。

「まぁ、幼なじみが結婚するとあればなぁ…仕事ケッてでも駆けつけるよ。」
『うん……けんちゃんって昔からそうだったよね。』
「そうかぁ?」
『うん、私はそう思ってるよ。はい、どうぞ。』
「おう、さんきゅ。」

妙子から、熱いお茶の注がれた湯飲みを渡される。
手の薬指には、鈍く光るシルバーのエンゲージリング。

化粧っ気がなく派手なアクセサリーが嫌いな妙子にとって、
このリングだけは別物なのだろう。
ときどき会話が無くなり、俺が無言でお茶をすすっている時に、
ぼうっと妙子はリングを眺める。
相当気に入っているのだろうな…。


でも、何だろう…。時折見せる妙子の物悲しい表情。
そんな妙子をぼうっと眺めていると、妙子がふっと聞いてきた。


『……なんか、私の顔についてる?』
「うん、今凄くシアワセです、って思いっきり顔に書いてある。」

いたずらっぽく答えた俺、でも妙子はツッコミを入れず、何故か黙る。
普通なら少し頬を染めて『こぉらっ!』というツッコミが入ると思うのに…。

『シアワセです……か…。』

そう呟くと、ため息を一つ。

「何だよ、シアワセじゃないのか?そんなこと言ってると、アイツ泣くぜぇ〜。」

と、ここでも冗談交じりで言うが、どうも妙子は真剣に悩んでいるようだ。

『……ねぇ、けんちゃん。』
「あ?」
『結婚…するのって……男の人でもやっぱり考えたりする?』









突然の妙子からの質問で、俺は一瞬硬直した。







「はぁ?」

その硬直を解いたのは、俺の気の抜けた返事。

『だから……私なんかで…いいのかな?』
「なに惚気(のろけ)てんだよ…おまえは…。」
『えっ…?』
「アイツは妙子の事が好きだから、結婚するんだろ?何を気にしてんだ?」
『そうじゃないの……確かに妙子だからいいんだよ、って言ってくれるけど…
無理しているんじゃないかな…って思うのよ…。』
「なるほどな…確かに重荷にはなるだろうな…。」

と、俺は冷たく言い放った。
その一言を聞いて、妙子の顔は青ざめた。

「でもな、それは一人で全部背負い込むからだ。
お互いのいいところ、悪いところ、全部ひっくるめて好きになったんだろ?
だったら、共に生きていけば、重荷にも何にもならないと思うぜ。」
『えっ…?』
「だから!何でも妙子一人で抱えこまないで、
アイツと一緒に悩み苦しめってことだ!わかったか?」
『……』
「それとも、自信が無いのか?」
『……』
「今からマイナスに考えてどうすんだよ!これから先長いんだろ?」

ちょっと言い過ぎたと思ったが、
今の妙子にはこれくらい言わないとだめだと思った。
何でも一人で背負い込んでしまう妙子、押しつぶされるほどの未来への不安。
それを今まで一人で抱え込んでいたのだろう。


そんな心の呪縛から解けた妙子は、ふっと微笑んだ。

『……うん…ありがとう…。』
「よっし、じゃ俺は一旦家に帰るわ。」
『あっ…そういえば私が引き込んじゃったんだよねぇ…。』
「そうそう、おまえの馬鹿力でな。」

すこし妙子に安堵の表情が見えたので、冗談混じりに言った。
案の定、妙子はまっかに怒った。

『こらぁっ!か弱い女性にそういうことを言う!?』
「へっ!か弱いだぁ?高校のときだって、ばしばし叩いてたくせに!」
『あー!もう許さないぞっ!』
「へっへー!本当の事を言ったまでだよ!」

そう言い放つと、俺はリュックを背負って安達家を飛び出した。

『こらぁっ!待ちなさい!』

遠くで妙子の怒った声が聞こえるが、俺は怯まずに安達酒店を後にした。










 



 そんな騒動があった3日後の、青森のとあるホテルの結婚式場。
「……化けたよな…。」
と俺。
「馬子にも衣装、姉ちゃんにウエディングドレスとはよく言ったものだね…。」
と純。


















「でも、……綺麗だよな。」
と2人で口をそろえる。

純白のウエディングドレスに身を包んだ妙子は、本当に綺麗だった。
そして、その笑顔は俺にはとてもまぶしくて、ちゃんと顔を見れなかった。



 やがて結婚式が終わり、身内や旧友だけの披露宴となった。
身内の他は、俺らの小学校のクラスメートばかりだった。

げげっ…担任の永本までいやがる…。
……しかしこれは、同窓会か…?

と心の中で呟いた。


やがて、2人がキャンドルサービスで回ってきた時、俺は
「2人とも、……おめでとう…。」
と一言だけ言った。
2人とも、笑顔で返してくれた。
キャンドルを持つ2人の手のリングが、
ろうそくの優しい炎に反射してまばゆく光った。



<Story over>




〜榊 晶さんあとがき 〜

えーっと…最初のネタからはかなりかけ離れてしまいました。
ちなみに、やっぱり構想3秒でした。(笑)
テーマはマリッジブルーでス。(爆)
結婚した後とかの話はよく書くのですが、結婚する直前の話って、
あまり無いのでちょこっと書いてみようってコトでかきました。
それでは、あでゅー☆

Special thanks:けん様



〜今日のお話〜

以前から思ってたのですが、妙子は一人でなんでも思い悩んでしまうタイプのようですね。
なかなか人に相談しにくい性格のようです。
貴方は、妙子の悩みを受け止めてあげられますか?



(2001/01/19)




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