〜 Present for you 〜
最終話「Present for you…」



『私がアイツにできること…ってなんだろう…。』



Trrrr Trrrr Trrrr

『えっ!?』


 電話のベルで私ははっと我に帰った。

『もしもし、遠藤ですけど。』

「あ、僕だよ。」

 電話の声は私が一番聞きたかったアイツの声だった。
私は嬉しい気持ちを抑え、いつものように振舞う。

『あら、どうしたの?』

「いや、久しぶりに遠藤の声が聞きたくなったんだ。」

『そうなの?ふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ。』

 私はいつもこんど電話がかかってきたら、ありがとうって言おうと思っているんだけど、
いざ言うとなると、頭の中が真っ白になっちゃって、結局いえずじまいでここまで来
てしまった。

「そういえば、また今度長崎に行こうと思うんだけど…」


えっ・・・?


『本当?今度はいつ来てくれるの?』


・・・また私のためにアイツは・・・


「そうだなぁ…今度の週末かな?遠藤は大丈夫?」


・・・私がアイツにできること・・・


『そうねぇ…』


・・・私がアイツにできること・・・
アイツは私に逢いにきてくれる。
今度は私が逢いに行こう!!

『ねぇ。』

「何?」

『今度の週末はどこにもいかないで、あなたは家にいて。』

「えっ!?」

『お願い!訳は訊かないで!!』

「うん、じゃ僕は家にいるね。」

『ごめんなさい、それじゃ。』


カチャ



・・・私の導き出した答え、それはアイツに会いに行く。
アイツはアルバイトをして、休みの日に私に会いにきてくれる。
長崎と東京の旅費を稼ぐのだって大変なはず。
それなのにアイツは私に疲れた顔ひとつ見せないで私に会いにきてくれる。
だったら私ができるアイツへの感謝の気持ちとして、私から会いに行こう。
それが私の結論だった。


 翌日、私は学校からアルバイト先へ向かった。

『このアルバイトも今日で終わりか…結構楽しかったな…。』

 そう思いながら、私は坂を下りていった。




「あきらっ!」

 不意に後ろから声がする、とてとてと走ってくる姿、それは麻衣だった。

『あら麻衣、早いじゃない。掃除は終わったの?』

肩で息をしながら麻衣はえっ?って表情で答えた。

「なーにすっとぼけてんの?私は先週だよ、今週は美紀ちゃんたちの列だよっ。」

『そ、そうだったわね…』

麻衣は私の顔を覗き込んできた

「なーんか最近あきら変だよ、どぉしたの?」

『えっ?私が?』

そう言うと麻衣は心配そうな表情で

「うん、休み時間とかどこか上の空だし、この前だってなんかぼーっとしてたし…
どうかしたの?」

と言ってきた、この子とろいようでどこか鋭いのよね。

『うん…ちょっと悩んでたんだけど、なんとか解決できそうなの。』

そう言うと麻衣はいつもの笑顔で

「そっか!よかったね!」

と言ってくれた。

 この子の御陰で救われた部分は多々ある、もし私がアルバイトをやっていなかった
ら、アイツの苦労は気づかなかった部分だと思う。
1ヶ月アルバイトをやってきた中で私の得たものは大きかった。
普段見られない喫茶店の裏側、お客さんのゆったりとした表情、
そして何より働くことの大変さ、このアルバイトをやって本当によかったと思う。


いつもは7時までだけど、今日は閉店時間まで残った。

「お疲れ様、遠藤さんは今日までだったよね。」

『はい、1ヶ月ありがとうございました。』

マスターはにっこり微笑んだ。

「いや、礼を言うのはぼくのほうだよ、急にアルバイトをさせてしまって。
麻衣ちゃんから聞いたけど、ヴァイオリンの練習とアルバイトを両立させていたん
だって?」

 私は『余計なことを言うんじゃないの!』という視線を麻衣におくった。
案の定、麻衣はさっとマスターの後ろに隠れる、
そして私のほうをチラッと見て顔の前で手を合わせた。

『え…えぇ、まぁ。』

「本当にお疲れ様、まぁカウンターに座ってよ。
ほら麻衣ちゃんも、ぼくの後ろに隠れてないでキミもカウンターに座りなよ。」

 そう言うと、マスターはサイフォンでコーヒーを淹れてくれた。
店いっぱいにコーヒーの香りが拡がる、私はこの雰囲気が一番のお気に入り。

「さぁ、これはぼくのおごりだよ。」

「わーい!いっただきまーす!」

『いただきます。』

マスターの淹れてくれたコーヒーを一口飲む、
それは今まで飲んだコーヒーの中で一番美味しかった。

「うーん、いつ飲んでもマスターのコーヒーって美味しいねぇ。」

『本当に…すごく美味しい…。』

「二人ともありがとう、そう言ってくれるのが一番嬉しいんだよ。」

『そうなんですか?』

そう訊くと、マスターは目を細めて語った。

「うん、ぼくはお客さんが喜ぶ顔が見たいから、美味しいコーヒーを淹れようといつ
も努力してる。
たった一杯のコーヒーでも、その人の心に残るような美味しいコーヒーを淹れたい、
それがぼくの気持ちなんだよ。」

私はマスターのこの言葉がなにか大切なものに思えた、
いえ、なにか大切なものが込められているように思えた。

『なるほど…そういう気持ちが込められている分美味しく感じるんですね。』

「そうかもしれないね。」

 その後、私たちはたっぷりと無駄話を楽しんだ。
私の今までのアルバイトの苦労談や、麻衣が語るマスターの秘密、
それにマスター直伝の美味しいコーヒーの淹れ方まで、
そんな楽しい時間が過ぎていった。


「あっちゃ〜…すっかり遅くなっちゃった…。」

楽しい時間は過ぎていくのも早く、ふと気づいたらゆうに10時を回っていた。

「それじゃ、二人とも送っていくよ。」

マスターの厚意はありがたいけど、私の家はここからそう遠くないので断った。

「あ、そうだ、これ。」

マスターは私に封筒を手渡した。

「少ないけど、バイト代としてとっておいて。」

私は封筒をあけ中をのぞいた、その中には5万円入っていた。

『こんなに…いいんですか?』

「うん、よく頑張ってくれたからね。」

『ありがとうございます!』

私は深く頭を下げた。

「いいんだよ、またおいで、いつでも歓迎するよ。」

『はい!』

 私はマスターと麻衣に手を振り家路についた。
普段ならあまり感じないけど、これだけのお金を稼ぐのに
大変な思いをすることを改めて知った。
そしてアイツの苦労も、また少し分かった気がした。


翌日、学校が終わってから私は旅行代理店へいった。
そして、アルバイト代をはたいて東京ゆきの航空券を買った。

『これで、アイツに会いにいけるわ!』

そう思うと、今度の週末がとても待ち遠しくなる。


そして…








『ようやく着いたわね…。』

私はアイツの家の前にきた、ここに来るのは何ヶ月振りだろう。
そして私は期待と不安を胸にベルを鳴らす…。

『ふふっ、これが私からの感謝の気持ち。ちゃんと受け取ってよね…。』



<終わり>






榊晶さんあとがき

長かった晶様SSも無事終わりました。
KAZさんのアドバイスはとても参考且つためになりました。
いつも的確な校正は本当に助かります、ありがとうございました。

掲載は31日、晶様の誕生日でお願いいたします。

この後は、ちょっと間を置いて、千恵の誕生日SSを書こうと検討しております。
その他は、榊のページの優SSを進めつつ、ほかのキャラも書いてみようと思ってま
す。
一ヶ月に渡り、作品を掲載していただきありがとうございました。
また次の機会も宜しくお願いいたします。

それでは、失礼致します。


文責:榊 晶(さかきあきら)/Akira Sakaki



〜今日のお話〜

 榊 晶さんより、四話連続・晶の誕生日プレゼント小説を頂きました。
ちゃんと相手のことまで思いやる晶。こうも真剣に相手のことを考えているとは、
晶の心の純朴さが現れているようです。
さて、晶の思いは届きましたでしょうか?
きっと、晶の思いは遥か遠い距離を越えて届くと思います。



(2000/10/31)




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