〜 美しい星の休日 〜



目が覚めた。時間は分からなかったが、なんとなくおそい時間なのだろうなという感覚が遼一にはあるだけだった。そして、時計を見て確信した。
「12時ちょい過ぎか…」
遼一はゆっくりと起き上がるとベランダの方へと足を運んだ。アパート2階の自分の部屋からベランダに出ると少し遠くに海が見えた。
「ベランダに出ると海が見えるんだ。」
そう言って昨日千恵を家に誘ったのを覚えている。ふと自分のベッドを見ると、千恵が口を開けながら寝ていた。その姿が微笑ましくもあり、遼一は笑ってしまう。
すると、隣りの方から犬の鳴く声が聞こえた。見ると、遼一の住むアパートの隣りの家で飼っている犬(ウェインという名前だ)が、庭の中から遼一に向かって尻尾を振りながら吠えていた。
丁寧に手入れをされている青々とした芝生の中にいる白い大きな犬に遼一は(吠えちゃ駄目だよ)というように人差し指を自分の口の前にやった。ウェインはまるで遼一の言いたい事が分かるかのように吠えるのをやめ、その場にお座りをした。
(もう少し千恵を寝かせてあげよう)そう遼一は思うとウェインに向かって手を振った。ウェインはそれが分かったのか、尻尾を振ったままその場に寝そべった。
それにしても今日は天気がいいと遼一は思った。太陽と青いそら、そして遠くに大きな雲がゆったりと浮かんでいた。



昨夜、遼一は東京のライブハウスに出かけた。
「東京のライブハウスでライブやることになってさ」と千恵が3、4ヶ月前に電話で言っていたので、チケットを送ってもらった。千恵のバンドはメジャーデビューとはいかないまでも、インディーズではそれなりの人気があるようで、地元でも話題に上っているようだった。
「対バンなんだけどさぁ」
「へ?タイバン……って?」
「あぁ、色々な他のバンドと出るってことよ」
 千恵は嬉しそうにそう話していたのを遼一は思い出しながらライブハウスへ向かっていた。学校の方は時間割の組み方から、その日は早めに終わっていたので適当にライブハウスの最寄り駅の辺りで時間を潰していたのだ。
地下へと降りた階段の先にドアがあった。遼一はチケットを店員に切ってもらい、建物の中へ入った。少し早めに会場に着いたが、結構な人数がその中にはいた。5バンド中、千恵のバンド『サウザン・ブラック』は3番目に出ることになっていた。
遼一はステージ中央がよく見える客席の一番後ろで、壁にもたれながらドリンクを飲んだ。ステージ前の方には何人かが集まっていて、今か今かとライブ開始を待っているようだった

 2バンドが終り、ついに『サウザン・ブラック』の番がきた。千恵はステージ中央のマイク前に立ち、遼一を見つけると軽く手を振った。そしてメンバーに合図を送り…曲がはじまった………。
 ステージ両方にあるアンプから大きな音が飛び出した。遼一は少しその音の大きさに驚いたが、千恵が楽しそうにギターを弾いていた事の方に意識を捕えられていた。
 4、5曲終わると千恵はエレキギターからアコースティックギターに代えながらMCを始めた。
「次の曲で最後になります。メンバーに我がまま言って、弾き語りをやらせてもらうことになりました。えっと………世界は色んなことがあって、自分が住んでいる周りは変わらなくても地球の裏側では内戦があったりで………でもきっとそんなあらゆる大変な問題があっても皆の内側に平和や人を大切にする気持ちがあることはきっと本当だから………そんな歌を唄いたいと…」
千恵は照れたように笑いながら言うとギターの弦を軽く弾いた。メンバーにありがとうと言うと静かに歌いだした。
ライブハウスで聞こえるのは千恵の声とギターの音のみだった。
遼一は何か、不思議な気持ちだった。
近くで、自分の傍で唄っているような………
ずっと、遠くで、手の届かない所で唄っているような………
不思議な感じだった………
歌詞の内容について遼一はうる覚えだったが、
『ビルの上から見た街の灯りはとても綺麗で、こんな綺麗な景色をつくれるのは美しい人々がいるからだ…』
というようなものだった。
千恵は弾き終わると、ありがとうとはにかみながらステージ脇に消えて行った。

「どうだった?」
ライブハウス前で遼一は千恵に聞かれた。
 周りも他のバンドメンバーと話したり、ライブ終了の打ち上げに足を運んでいたりした。
「うん、素敵だった」
そう言って良いのか分からなかったが、遼一は素直にそう言った。
「あーっと………どーすんの…この後は…」と遼一が聞くと、「この後はバンドメンバーと打ち上げ」と千恵は答え、遼一も来るかと言ってきた。『サウザン・ブラック』の他のメンバーからの誘いも受けたが、ライブを見に来ただけであったし、メンバーに自分が入って打ち上げを一緒に…というのも変な話だと感じたので遼一は断る事にした。千恵は残念そうな顔をしていたがそっかとだけ答えた。
 遼一は帰ろうと思い、駅の方に歩き出そうとすると不意に「じゃあ打ち上げ終わったら遊びに来ない?」と千恵に言った。千恵は「あぁ…いいけど」とだけ答え、後で電話するよとだけ言うと、バンドメンバーの方へ走っていった。



 とりあえず遼一は床に敷いてある自分が寝ていたタオルケットやら毛布を片付けるため、もう一度部屋に入ることにした。千恵は相変わらず遼一のベッドの半分口をあけて寝ていた。
 あの後、遼一は家に着くと眠気が襲ってきたので寝てしまっていたらしく、千恵からの電話が携帯にかかってきたので目を覚ました。電話に出ると千恵は酔っ払っているらしく、上機嫌だった。千恵一人で来させるわけにはと遼一は思うと、迎えにいくことにした。
 最寄り駅まで行くと、千恵がフラフラしながら歩いているのが目に入った。家に連れて来る間中千恵は「あたしの演奏どうだった?」としきりに聞いてきた。そう聞かれる度に遼一は「素敵だったよ」と答える始末だった。それをきくと千恵は満足そうにわらうのだった。
 家に着くと千恵は水を飲むと、遼一のベッドの上にコテンと横になり寝てしまった。遼一は「しゃあない」口に出して言うと床で寝ることにした。
 うーんという声が聞こえたので、遼一がベッドに目を向けるとちょうど千恵と目があってしまった。「やぁ」と遼一が挨拶すると千恵は飛び起きると「あれ?ここは遼一の家だけど…」と口ごもった。どうやら酔っ払っていて記憶がないらしい。遼一は笑うと「さて何ででしょう」といたずらをするように言った。千恵はしきりに何があったと聞いてきたが遼一は笑いながら毛布を片付け、ベランダに出た。外を見ると隣りの犬が尻尾をふって吠えてきた。遠くを見ると街が見渡せた。昨夜、千恵が寝た後見回してみると、ふと千恵がライブで唄っていた曲を思い出した。確かに、街の灯はそれを見るだけで人がいる、と感じさせるものだった。
 今も昨夜と同じ風景を昼みている。きっと今も、街は美しい人が溢れているのだろう。
「なーに見てんだよ」
 千恵が遼一の隣りに立っていた。遼一は千恵の手を握って独り言のように答えた。
「うん…美しい街を見ていた」





月の裏さんあとがき

今回は千恵の話を書いたのですが…しょぼくなってしまいました
千恵にはもっとスケールの大きい曲を歌ってもらいたいと思う次第です
その思いと、幸せな休日を組み合わせてみようと思ったのですが…
話を作るのは難しいです





〜今日のお話〜

こういう、日常的なエッセィも良いのではないでしょうか。
ラストシーンでは、「二人は心で通じ合っている」と感じました。
言葉にしなくても互いに通じ合っている二人・・・ 素敵ですよね。



(2002/11/16)




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