誕生の日の思い出


「おい、眠っているところも可愛いよなぁ〜」
…さっきから何回同じ事言えば気が済むんだこいつは…。
まあ俺も娘が生まれたばかりの頃は同じような台詞を連発して周囲の人間を閉口させたらしいからあまり人の事は言えんが…。
しかし締まらない顔してやがるな、鼻の下すっかり伸ばして…俺もこんな顔してたのかな…。

小学生時代のお前に似てるな、とか言ってやれば喜ぶんだろうけど…俺の目からはサルにしか見えん。さすがにぶん殴られそうなので、あえて言わんが。
そもそもこいつはすぐに引越してしまったから、小学生時代に一緒だった期間は半年くらいしかなかったんだ。
それにもかかわらず大学で再会したときにはひと目でこいつとわかるくらいに全く変わっていなかった。言い方を変えれば、童顔ということか。
卒業後、俺はそのまま大学に残ったが、こいつは就職して東京に行った。
ところが一年も経たないうちに転勤でこの札幌に舞い戻って来て、また顔を会わせることとなった。つくづく腐れ縁だ。
お互い札幌で結婚。俺は半年前に長女が誕生、こいつも昨日長男が生まれたばかりだ。

「しかしお前も大変だな。子供が生まれたばかりですぐ引越しとは」
「しょうがないさ」
子供の頃から何度も引越している奴だけど、子供ができてからも引越しか…。
仕事の内容を考えるとこれから先も転勤が多そうだ、というこいつの言葉に思わず同情してしまう。
しかし子供の頃に散々繰り返した引越しを我が子にまで経験させなくてもいいだろうに。
「単身赴任を考えないでもないけど、女房は一緒に行くって言い張るしな」
物心が付けば息子からはさぞかし文句を言われるだろうが、それは甘んじて受けよう。こいつはそう言って笑った。
「子供の頃は正直、引越しは嫌だった。親を恨んだ事もある。でもな、今じゃ感謝しているくらいなんだ。あの引越しがなきゃお前と知り合うこともなかったし、何より…」
「?」
「何より女房にも巡り合ってないしな。そうじゃなきゃ可愛い息子の顔も見られなかった」
「…ノロケるなよ」

「ところで子供の名前は決めたのか?」
「いや、色々考えちゃいるが、なかなか…そっちはほのかちゃんだっけか…良い名前だな」
まぁ自分でも良い名前を付けたとは思うけどね…と一人ほくそえんでいるとこいつがとんでもない事を言い出した。
「大きくなったらウチの息子の嫁さんに貰ってやってもいいぜ。ただし、美人に育てなきゃダメだぜ」
「美人になるのは決まっているさ。何しろ俺と嫁さんの娘だからな。世界一の美女になるぜ」
…我ながら親バカだな。
「そっちこそ、ウチのほのかを任せられるような男に育てなきゃ、娘はやらんぞ」
「それこそいらぬ心配だ。太鼓判を押してやる」
…親バカはこいつもか。
「…それじゃ、俺はそろそろ行かなきゃ。元気でな、沢渡」
「ああ、また会おう」
俺達はまたの再会を誓い合って別れた。



それっきり、あいつとは会う機会がない。
あの日の言葉通りあいつはその後も転勤の連続らしいが、一時期札幌に戻ってきた時も結局会う機会もないうちにまた引っ越してしまった。
あれからかれこれ18年、今日になるまですっかり忘れていた、あの日の半分冗談の会話が本当になるかも知れない。
今日、娘から付き合っている彼を紹介され、その彼の名前を知って、ぼんやりとそんなことを考えていた。

終り







〜 梅小路久彦さんあとがき〜

広いようで意外と狭いのが世の中です。
そこで、もし二人の親が知り合いだったら(でも誰もその事実を知らない)という設
定を考えてみました。
妙子以外ならヒロインが誰でも成立するお話ですが、ここはゲームイベント中で唯
一、主人公君と対面するほのかのお父さんにご登場いただきました。
それにしても主人公君のお父さんって一体何の仕事してるんでしょうね(笑)?




〜今日のお話〜

なんと申しますか、運命という言葉を感じる物語です。



(2002/07/26)




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