〜 僕のとある一日 〜
| ピピピピ……ピピピピ…… カチッ ある日の朝、布団の中でまどろんでいる僕は、時計を見てはっとした。 6時半!? まずい……。 かなりまずい……。 非常にまずい……。 これから家を出る8時までは、ある意味戦場なのに……。 僕はパジャマを脱ぎ捨て、タオルを持って風呂場へと走った。 が。 時すでに遅し、先客がのんびりと湯船につかっているのがわかった。 「あ、や〜っと起きたの?あんまり遅いから先入っちゃった。」 「…ふえ〜……」 朝の第1ラウンドは僕の負け。 でもこれは、僕たち一日の戦いの幕明けでしかなかった……。 「僕のとある一日」 僕たちが結婚したのは2ヶ月前、世間では新婚というやつなのだが、 結婚するまでが長かったので、互いの両親からは「やっとか」と言われてしまった。 それでも最初の出会いから今までで、既に10年近くいれば「やっとか」といわれる のも納得ができる。 僕の奥さんは金沢の老舗呉服屋の娘さんで、一時期跡を継ぐことでご両親ともめて いたが、 義姉さん夫婦が継ぐことが決まり、今は僕と東京で暮らしている。 一見すると大人しいように見えるのだが…… 「あー!まだ準備できてないのぉ!?」 ……ありゃ、意外と早いでやんの…。 「おはよう、美由紀。」 「それより、まだ準備してないの?」 「準備している最中です。」 美由紀は髪を梳(と)かしながら、朝食の準備を待っている。 今日は僕が朝食の当番なのだが、うっかりと寝坊したのでこのザマだ……。 シャワーを浴びる暇もなく、朝食の準備をする羽目になる……。 台所から、ねぎを刻む心地よい音がする。 それを奏でているのは僕だけど。 「ところで、今日も帰りは遅いの?」 「いや、残業がなければ定時で上がれると思う。。」 「そう、じゃいつも通りなのね。」 「そうなると思う。」 味噌汁の味を見ながら答える、味噌汁の方は…………うん上出来。 自慢の味噌汁をお椀に盛り、美由紀の待つテーブルへと運ぶ。 「ほい、おまちどうさま。」 「うーん…やっぱりご飯に味噌汁、これが日本の朝食よねぇ…。」 「じゃ、先食べててよ。僕はシャワー浴びてくるから。」 「ふぇ?一緒に食べないのぉ?」 ……急に甘えた声を出しやがったな…。 ……これはちとまずい…。 「僕はシャワー浴びてから食べるよ。」 「いいよ。」 やけにあっさり。 「その代わり、あなたの分も食べておくね。」 ……言うと思った…。 「お味噌汁が暖かいうちに食べよ?ね?」 そう言って美由紀はにっこりと笑う。 ちくしょう、コレに騙されるんだよな……。 で、結局。 「いただきます」 「いただきます」 2人で仲良く(?)朝食をとることになった。これで第2ラウンドも僕の負け。 反則スレスレの技を出されて、僕はいつも負けてしまう……。 「と・こ・ろ・で。」 ぎくっ。 「な、何?」 「この味噌汁おいしいわね。」 「そ、そう?ありがとう。」 「コツでも教えてもらったの?」 「まぁ、コツっていうか……。」 「…………安達さん?」 ぎくっ! 「……図星ね。」 「あ、いや、その、妙子が東京に来るっていうから… ……その、ついでにおいしい味噌汁のコツを…」 僕はしどろもどろになってしまった。 でも美由紀は冷静に一言。 「っそ。」 ……あれ? 「別に疚(やま)しいことしていないんでしょ?」 「ま、まぁそれはそうだけどさ……。」 「幼なじみに会うことが悪いとは言ってないわ。」 「そうだよね。」 美由紀は箸を止めてニッコリと 「駅前のケーキ屋で、おいしそうなのがあったんだよねぇ……。」 ……まさか……。 「今回はそれで許してあげる。」 ……負けた。 今日3回目の敗北。 「……ごちそう様。」 「あれっ?もういいの?」 「うん、そろそろ出かけなきゃいけないからね……。」 僕は覇気のない状態で立ち上がる。 そして自分の部屋へ戻り、カバンを取る。 さて、行くとするか……。 玄関で靴を履き、ドアを開ける。 「それじゃ、いってきます。」 「いってらっしゃ〜い」 美由紀はまだ朝食をとっているので、リビングからのお見送り。 玄関で見送ってはくれないのね……。 外は思いのほか寒くはなかった。 もうそろそろ春になろうとしているのかというくらいの、暖かな気候。 駅へと歩く道も苦にならない。 高校を卒業してから、美由紀は変わった。 いや、これが本当の美由紀だと思う。 家柄・受験・後継ぎ。 いろんなことで縛られていたのだが、それから開放された美由紀はとても生き生きと している。 重圧の中、自己を出さなかったせいで、彼女自身の本心はあまり表へと出ることはな かった。 そんな彼女もようやく自己主張ができるようになったのは、いいことなんだろうな。 少し控えめな美由紀も好きだけど、今の美由紀のほうが僕は好きだ。 毎日美由紀にいぢめられたりするけど、とても楽しい毎日を送っている。 ぼーっと考え事をしながらでも、仕事がはかどるのは僕の得意技なのだろうか。 いつの間にか昼休みになっていた。 「なぁ、飯食べに行こうぜ。」 課の同僚が昼飯に誘ってくれた。 「おぅ、でもちょっち電話してからな。」 「お、お決まりのラブコールですな。いいねぇ新婚さんは。」 「違うって。」 即座に否定して、家の電話番号を押す。 ……。 ……。 これはまさか。 『ふぁい、もしもし。』 「……寝てたな?」 『ふぇ?あぁどしたの?』 「多分朝飯食べて寝てるだろうと思ったから。」 『ぴんぽーん』 「おい……。」 『てことは、そろそろお昼なんだねぇ。』 「洗濯の当番、忘れてないだろうね?」 『忘れてないよぉ、これからするんだもん。』 「……ならいいけど、それじゃまたね。」 『うん、頑張ってね。』 カチャ。 「お待たせ、じゃいこうか。」 「かーっ、相変わらずお熱いねぇ。」 「はいはい、その辺にしていくよ。」 後で待っていた同僚から軽くなじられるが、適当にかわす。 僕の会社の近くには、たくさんの定食屋がある。 でも、僕たちが行くのは決まって一つ。 なぜなら、あまり知られていないので静かに食事ができるからだ。 この店のオヤジは、頑固で有名で普通のOLとかの客はまず立ち寄らない。 でも、話してみるとこれまた面白いオヤジだったりする。 暖簾をくぐり第一声で注文する。 「おっちゃん、いつもの。」 「……はいよ。」 カウンターの前に陣取り、料理ができるまでの間、僕はいつものように 「昨日はどうだった?」 とか 「奥さん寂しくないの?」 と同僚から攻められる。 新婚生活とはそんなに物珍しいものなのだろうか。 そうこうしていると料理が出来上がる。 そして、オヤジから決まって一言。 「……おまえ達は早く食いすぎる、もっとゆっくり味わって食え。」と忠告を受け る。 そんなオヤジの言葉をちゃんと聞く前に、僕たちは料理に箸をつけた。 オヤジはそんな僕たちを見ると、厨房で新聞を読み始めた。 しばらくして、出てきた料理を全て平らげ、お茶をすすっていると、 珍しくオヤジが話し掛けてきた。 「……おめぇさんとこは、新婚さんか。」 「はい、そうです。」 「どれぐらいだ。」 「ちょうど2ヶ月目ですかね。」 「そうか、……今が一番いいときだが、この先が決まる時でもあるんだ。」 オヤジはゆっくりとした口調で話す。 「甘やかしすぎても、突き放しすぎてもいけねぇ。その辺考えてこれから先付き合い な。」 「はい、わかりました。」 「そっちのおめぇも覚えとけ。」 「……はい」 こういうオヤジの一言はかなり心に響く。 僕はその一言を肝に銘じた。 「……ふふっ、しゃべりすぎたな……そろそろ会社戻らなくてもいいのか?」 オヤジの一言で現実に戻される。 時計は1時をもうすぐ指そうとしている。 「うわっ!やべぇ!」 「おじさん、お金ここにおいて置くから!」 急いでジャケットを羽織って僕たちは店を飛び出した。 会社からの帰り道、オヤジの一言を反芻する。 『甘やかしすぎても、突き放しすぎてもいけねぇ。』 ……実際のところ、ナンダカンダといいつつも、結構美由紀には甘いような気がす る…。 ここいらで少し気を引き締めなければいけないのか。 ……いや、僕たちはこのままでいいと思う。 一生二人で朝から晩まで漫才しながら、笑って生きてゆく。 それが僕たちには一番合っているのかもしれない。 60歳超えたおじいちゃんおばあちゃんになっても……ずっと。 おっと、ケーキを買って帰らないと美由紀に怒られるな。 「すいませーん!」 僕は美由紀のお気に入りのケーキを、片っ端から買っていた。 |
〜榊 晶さんあとがき
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| えーと、なんでもないごく普通の奥さんになった美由紀さん。 彼女のもう一つの道ということで、書いてみました。 ああっ!石は投げないでぇぇ……。(滅) センチの中で、かなり普通の女の子な美由紀さん。 だけど、背負っていたものは他の女の子よりも重いものだったりします。 家柄だとかそんなのは、生まれる時の運命にすぎません。 一時期はそれ以上に将来の事で思い悩んでしまい、かなり苦しい思いをしたはずで す。 でも、今の美由紀さんは笑っています。 それは自分自身を思いっきり彼へぶつけているから、 あの漫才(笑)はその一部分なのです。 それでは、あでゅー☆ 榊 晶拝 |
| うぬぬ、こ、これは・・・、僕はずっと尻に敷かれつづけるのでしょうか!? 「僕」の夫婦生活やいかに!? |
