センチメンタル・ストッパーX・グランド・エピローグ
いつか二人で・・・
| ▼ こうして、わたしの・・・プロ野球選手山本るりかの、長い長い6日間は終わった。 自分でゆーのもなんだけど、我ながらよくがんばった・・・と思う。 なお、最後に重大発表があります。(ぱんぱかぱーん!) あの試合の後、ウチの相棒がオリンピックの日本代表に選ばれましたー。 うれしい。うれしい。うれしい。やったー。 代理だし、実力的にはアマから参加の捕手の方が上だとか、いろいろ言われている。そ りゃあ、日本一のあの大捕手と比べれば、盗塁阻止率も3割違うし、打率も2割違う。出 場試合が半分以下なのにこの有様じゃ何を言われてもしょーがない! わっはっはー。やーい。代理代役。間に合わせー。 (すっぱああん!・・・と、スリッパの音) ・・・い、いったーい。 もおおっ! いきなりはたく事ないじゃない・・・ 「ええい。やかましいっ! 」 と僕は「つっこみスリッパ」を握り締めて、るりかを怒鳴りつけた。 「そんな事はわかっとるわい!」 ・・・まあ、これには色々な事情がある。説明が必要だろう。 周知のとおり、オリンピックへのプロ派遣については議論があった。 特に攻守の要である捕手のポジションについては大変な騒ぎになった。結局、正捕手の ポジションが埋まらず、「プロの若手から」という話になり、僕がその代役に選ばれたのだ。 球団上層部(お偉いさんたち)の考えている事なんか、わかってる。 若くアマ代表の投手と歳が近い事。控えとはいえれっきとした一軍クラスの捕手。正捕 手の怪我も回復して残りゲームくらいは何とかなる。球団の面子も立って、戦力的にも大 してダメージなく、なおかつ選手を派遣しないライバル球団へのあてつけにもなる。間違 って活躍でもして、金メダルでも獲ろうもんなら、新ヒーローの誕生だ。戦力外のぺーぺ ーのド新人の一人や二人、熨斗つけて送り出したくなるだろう・・・うう、言ってて情け なくなってきた。 いいとも。いってやろーじゃないか。この稼業は目立ったもん勝ち。 ヒーローになって正捕手になって、年俸を倍にしちゃる! ・・・ でも、別の思惑もわかっている。現場の首脳部・・・とりわけ監督はるりかをストッパ ーとして一人立ちさせたいのだ。そのためには、誰とバッテリーを組んでもコンスタント に成績を出せるようにしなければならない。現実にこの六戦ではるりかは僕の助けなしに 素晴らしいピッチングをやってのけた。首脳部はそれに手ごたえを感じたのだ。 あの監督の事だ。優勝決定の試合だろうが、消化試合だろうが、機会と見ればるりかを 登板させるだろう。回数も今よりずっと増える。 るりかがプロでやれるかどうか。ここからが本当の正念場なのである。 そんな時にベンチに居れないのは辛い。首脳部の思惑が僕の考えどおりなら、ベンチど ころか2軍に落っことされるかもしれないけれど、それでも、せめてるりかのそばに、日 本に居たかった。 その時、ふわりと、いい香りがして、背中に暖かいものが押し付けられた。 振り返らなくても、それが何なのか、僕にはわかっていた。 わたしは、彼の背中に頬を押し付けた。 彼の考えている事はわかっている。プロ野球選手としては、彼の方が崖っぷちに立って いるのに・・・だぶん、この人はわたしの心配をしている。わたしの事だけ心配している。 わたしは彼の背中に言った。 「大丈夫だよ。わたしは大丈夫だから。みんなだって・・・」 あなたを必要としている。監督だって期待している。・・・そんな事、いえない。結果を 出して初めて必要とされる。私たちはそういう『世界』で生きているのだから。 わたしは顔を上げた。彼を慰めたくなかった。心配もしたくなかった。ましてや、哀れ みたくもなかった。信じてる。だから笑って、軽く言った。・・・言ってやった。 「ね。金メダル、獲ってきてよ。」 「ゲーセンで、ぬいぐるみ獲るんじゃないんだぞ。」 僕は言い返した。 「いうほど、獲れた事もないくせに。」 やかましい。(るりかのゲーマーとしてのセンスは野球以上である) るりかは強くなった。だが、僕はどうだろう? この一年でどんなに変われたろうか? 才能が無い。そんな事はわかっている。爆発的に進歩もしないだろう。でも、もし、金メ ダルを取れたら・・・僕はるりかの隣に居られるだろうか? るりかの心の中の「あいつ」 にほんの少しでも近づけるのだろうか? だったら、僕はそのために金メダルを奪らねばならない。 僕はそのために日本代表へ・・・オリンピックに行かねばならない。 奪る。僕を信じてくれる小さな守護天使のために、僕は、僕自身の価値を証明しなけれ ばならない。 今の僕には、それしか、ない。 「獲るさ。」 るりかのために、僕は・・・シドニーへ、行く。 ▼ 彼の日本代表参加を見送った後、わたしはすぐさま二軍に落とされた。腕も指もボロボ ロだったし、神経が磨り減って軽い「鬱」・・・というか、脱力状態に陥っていた。(実は 腕よりも、こっちの方が重症だった。) しばらくボールも握らず、グランドでは走り、ウェートをやり、プールで泳いだ。監督 は「無理せんでいい!」って言ってくれたが、わたしは次の試合には復活するつもりだっ た。だけど、肘の具合は予想以上に重症で、思ったよりも長く戦線を離脱する事になった。 気持ちが落ち着いてくると、今度は「あせり」が出てきた。でも、疲労が原因の故障は時 間がかかる。根気よく、体と相談しながら、治すしかない。 香澄ちゃんはアメリカ。昌宏は東京の大学。吉野君も彼の代わりに一軍に帯同していた から、わたしは久しぶりにホントに独りになった。今までがむしゃらに走ってきたわたし にはいい休養だった。久しぶりに風の匂いを感じながらグラウンドを走った。休みの日に は実家に帰った。慌しいような、それでいて時間がゆっくり流れているようなそんな日々。 ただ、シドニー・オリンピックの中継は録画して必ず見た。野球の日本代表はその頃予 選の真っ最中で、緒戦のアメリカ戦をいきなりエース格の投手で負けたりして、苦戦を伝 えられていたが、予選終盤にはどうにか4勝を上げ、決勝トーナメント進出決定。彼もい い所でヒットを打ち、「よくやっている」などと解説者に誉められていた。わたしはスポー ツ紙や週刊誌を買ってきては、記事を切り抜いてスクラップを作った。新聞によって記事 の内容に随分違いがあったが、いい記事も悪い記事も全部集めた。たぶん、帰ってきて彼 が見たいだろうとおもったのだ。 そして、9月24日。 ウェスタン・リーグで二回登板した後、わたしは一軍に復帰した。二軍落ちから2週間 が過ぎていた。 ▼ 敵地での対巨人最終戦、4点リードの最終回。無死1塁2塁の場面。 豪雨のような歓声が鼓膜を叩かれながら、わたしはその夜もストッパーとして、マウン ドに上がった。敵味方、合計8人の投手に踏み荒らされたマウンドは、可哀想なほどに荒 れ果てている。 「こういう時、先輩ら、どんなこと話してるんですか?」 規定の投球練習を終えた後、マウンドに上ってきた吉野君がそんな事を聞いてきた。 「・・・べつに大したこといわれた記憶無いなあ。」 わたしは言った。 「試合の後どこにご飯を食べに行くかとか、移動日に映画に行こうか、とか・・・でね」 さらに、ちょっと笑って付け加える。内緒話をするように、おどけて。 「試合が終わったらあの人、ご飯の約束も映画の予定もみんな忘れちゃってるのよ。緊張 感ほぐそうと思ってるんだろうけど。もうあんまり見え見えで。しょうがないのよ。どー しよーもない野球馬鹿で、頭の中、野球の試合の事でいっぱいなんだもん。」 「・・・」 吉野君は何にも言わずに笑った。ちょっとうれしそうで、でもかなしそうな、不思議な 笑顔。 わたしとしては、ちょっと辛い笑顔。ホントに素直でいいコだけど、プロの捕手ならも う少しポーカー・フェイスを勉強した方がいい。わたしは話題を変えることにした。 「ゲーム差8.5・・・」 わたしがそういうと、吉野君は意外そうな顔をした。 「ゲーム差。今8.5だよね。・・・それで、マジック1。」 「そうですね。」 ジャイアンツが一勝したら、ウチが残り試合全勝しても勝率で優勝が決まる。 「だからさ。最終戦。・・・今日ジャイアンツが負けて、ウチが最終戦まで負けなかったら。」 吉野君はニヤリと笑った。 「ドラマですね。そりゃあ・・・」 「そう。それが一番、ドラマチック・・・」 「本気ですか?」 「お客さんが望むかそれ以上のドラマを見せるのが、『プロ』じゃない?」 吉野君は白い歯を見せて笑うと、ホームベースの向こうへ駆け足でかけていった。 よし、と呟いてわたしはロージンを指先で躍らせて、プレートの端に落とす。 サインの交換。 静かに息を吐いて、セット・ポジション。 ランナーの気配を背中で探りながら、わたしは鋭く腕を振り上げる・・・ この後・・・ わたしは一死をとったものの、満塁ホームランを含む2本塁打を打たれて、五失点。 プロ入団以来はじめての、そして、生涯けっして忘れる事のない、サヨナラ負けを経験 する事になる。 ▼ 数時間後。 わたしは電話の前にいた。そこは宿舎の一階ロビーで、何故か中村さんと吉野君と監督 がいた。 私服のポロシャツ姿の監督(飲み行くつもりだったようだ)がベンチを変わらぬ威厳と 闘志に満ちた顔で口を開く。 「遅かれ、早かれ、あいつにも今日の試合結果は伝わる事になる。」 それはわかっています。 「金メダルのかかった大事な試合の前だが、こういう事はかえって早いほうがいい」 それも何となくわかってます。でも、よりにもよって、キューバに負けたその日の夜に 電話しなくたっていいような気がする。(これで3敗目だけど、すでに4勝しているので決 勝トーナメント進出は確定。) 「お前もどうせ、一軍に復帰したら電話をかけるつもりだったんだろうが」 いや、それは、そうなんですけれど。 「だったら、さっさと電話して、『一軍に復帰したけれど、いきなり対巨人最終戦の東京ド ームでサヨナラくらっちゃったあっ。わっはっは。』と言え。」 なんで最後が「わっはっは」なんですか! 「いや、『しくしく』でもいいが。」 言い換えればいいってわけじゃないです。 「つべこべ言わずに、電話してこっちの事を説明して向こうの状況を聞け!」 それが納得できないんですよっ! 監督っ! わたしは電話から顔を上げると、体ごと監督の方へ向き直って怒鳴った。 「なんでわたしなんですかっ!」 「るりかさんが直接ゆーた方が先輩もショックがすくないんとちゃいますか?」 吉野君、あなたまでそんな事を。 「ええから、電話くらい、ぱきっとかけんか!」 うう、すまじきものは宮仕え。 『国際電話の手引き』などという小冊子を片手に格闘する事、数分。(実は今まで一度も電 話をかけたことがない。)選手村宿舎のフロント(日本語が話せるスタッフがいた。)が電 話を取り次いでくれた。 『はい?』 懐かしい声。まだ離れて2週間しかたってないのに。 「あ、あの」 『るりか?』 「あ、うん。えと・・・元気?」 『ああ、うん。なんとか。』 中村さんが「お前らは高校生か・・・」と呟くのが聞こえた。ついでに「これは中学生 レベルです。」と吉野君がツッコむのも。 「ええと、大変?」 あああ、だめだ。こ、こんな会話しか出来ない。 『うーん、大変なのかなあ』とちょっと悩んだ後で。 『いや、・・・凄いんだよ。うん。』 彼はそう言った。 『一球一球が違うんだ。重いんだよ。金縛りにあってるみたいだ。でも、ヒット一本打つ と、羽が生えたみたいで、宙に浮いてるみたいで・・・』 なんだか、野球をやっているんだけど、野球じゃないような感じだ、と彼は言った。 『で、負けそうになると、胸のあたりがカーって熱くなってくるんだ。』 「ジャパンの文字のあたり?」 『そうなんだ。なんか・・・なんかうまくいえないけど、すごいんだ!』 話ながら、彼の声のトーンが上がっていくのがわかる。 『キューバは選手全部がなんかゴムでできてるみたいだし、韓国はプロとかそんなじゃな くて、執念がすごい。アメリカはなんだかもう、全部すごい。みんな高校生みたいに一生 懸命で、なのにプレイはプロみてーだし、ああ、日本代表だってなんか違うぞ。ここには プロもアマチュアもいない! 野球選手だけしかいない! それも国を背負った最高の選 手しかいない!・・・ここには、るりかに見せたいものがいっぱいある!』 「うん」 そっか・・・彼はそういう野球をやってたんだ。楽しそうで、よかった。安心した。 『るりか、僕はもう一度ここへくるぞ。』 彼はかなり興奮していた。「なんか違う」のは、彼の方だ。 『そのときは誰の代理でもなく、僕は僕自身としてくるんだ。僕は僕自身として、もう一 度、ジャパンのユニフォームを着てやる! 絶対だ! くやしい。けど、こんな気持ち、 すっごい久しぶりだ。・・・忘れてた。』 「うん。」 『そんときは、るりかも来いよ。』 「無理だよ」わたしは笑った。「一応シーズン中だよ。お休みなんてもらえないって」 すると、今度は彼が笑った。 『たーけ。誰がスタンドにこいつったよ。』 「え。」 ちょっと、何を、この人は・・・。 『僕とるりかで、金メダル賭けた試合を締めくくるんだよ!』 試合を締めくくる。それはストッパーの仕事だ・・・でも! オリンピック! わたしが! いや、それ以前に野球って男女混合競技だったか? 『まだ4年ある。僕は日本一のキャッチャーになる! お前にふさわしい最高の捕手にな る。お前は日本最強のストッパーになるんだよ。日本一のバッテリーになって、金メダル 獲りにきっとこの場所にもう一度来てやる。るりかさえいればあんなやつらに負けやしな いんだよ。僕の隣にるりかさえいれば・・・ちくしょう! このままで終わるもんか!』 ぐるぐるぐる。とりとめもない考えが浮かんで消え、回り、踊る。 何にもいえなくなった。わたしの様子を察したように、シドニーの彼は「るりか」と受 話器越しに呼びかけてきた。 『知ってるか? オリンピックてのはな、実は見るもんじゃないだぜ。』 そして、それは晴れやかな声で、わたしの耳へささやいた。 『オリンピックてのは、参加することに意義があるんだよ。』 「・・・うん。」 さよならホームランも、目の前の胴上げもどっかに飛んでいった。いや、忘れない。 わたしはあの時、胸の奥にともった炭火の様な悔しさを抱いて今年の冬を越える。 でも、4年後にはアテネでオリンピックが開催される。他には何も保証はないけれど、 それだけは確実。 「いこうね。オリンピック。・・・いつか、必ず。」 彼はいつもわたしに『夢』をくれた。抜け殻の様になわたしに。立ち止まりそうになっ たわたしに。 スタンドに過ぎた昔を探していたわたしを、彼はずっとホームベースの向こうで、待っ ていてくれた。 よし、きめた。わたしは彼と同じ夢を見る。彼が今までわたしと同じ夢を見てくれたく らいに、今度はわたしが一生懸命、命がけで、彼とおんなじ夢を見る! 彼のカタキはわたしが打つ。 「うん! 二人でいこう! オリンピック!」 わたしたちは「おやすみ」と挨拶を交わして、受話器を置いた。胸の奥があったかいも ので一杯に膨らむのがわかった。わたしはその「あたたかさ」にしばらく身をゆだね、幸 せな気分に浸り・・・そして。 「・・・・・・」 中村さんと吉野君と監督が並んで困った顔をしていた。その顔を見て、わたしは、わた しは、彼にこちらの用件を何も伝えていない事に(その時初めて)気が付いた。 「日本一のキャッチャーか・・・大きく出たな。」 監督があごに手をやった。 「やっと自分自身を信じる気になったらしいな。いい傾向や。」 うれしそうだ。(この人は基本的に興奮している選手が好きなんだ。結局。) 次にわたしは恐る恐る、正捕手の中村さんを振り返った。 「なれますかね? 彼?」 「まず4年。」中村さんはにやりと笑った。「この俺に追いついて、吉野に追い抜かれんか ったらな。挑戦権ぐらいはくれてやるぞ。俺は懐が大きいからな。」 「俺かて」パンとこぶしを掌に打ち付けて吉野君がいう。「あきらめへんです。」 前途多難。チームの人はみんな良い人だけど、けっして甘い人たちではない。 でも、わたしたちは逃げない。あきらめない。立ち止まらない。 オリンピックだろうが、日本シリーズだろうが、ベースボールのワールド・カップだろ うが一緒に行く。 ふたりなら、きっといける。きっと夢は全部かなう。 わたしたちは、史上最高のバッテリーになるのだから。 ▼ そして・・・春。 天気は良い。にくらしいほどに上天気。 ここはキャンプ地近くの県営球場。開幕を間近に控え、僕たちはオープン戦を戦ってい る。るりかはともかく、いつも一軍枠ぎりぎりの僕は、この時期、ある意味シーズン中よ りも追い詰められた雰囲気で試合にでていた。 昨シーズンはホントに色んな事があった。 オリンピックは・・・まあ、あのとおりだ。それ以上でもそれ以下でもない。ペナント レースも、あの様だ。 その上、あの六連戦の事を何度聞いても、るりかは笑ってはぐらかすばかりで、まじめ に話してもくれない。 僕はというと、相変わらず、こうやってるりかをみているだけだ。 かろーじて今年もこのチームでやれそうなのは、よかったけれど。 まあ、栄光に近道なし・・・って、コーチも言ってたし。こうなれば今度こそ、優勝し て、日本一にもなるしかない。・・・でも、そうなっても、『あいつ』を超えられる保証は ないんだよなあ。 彼女はいつものとおり、3塁側のスタンドをぼんやり見やっている。 僕はそれをなすすべもなく見ているだけだ。何の進歩も進展もない。 なあんにも変わらないまま、僕たちは新しい季節を迎えようとしていた。 ▼ わたしは3塁側のスタンドを見ていた。そこには、当然『彼』の姿はない。 わかっていた。あれが最初で・・・最後だという事は。 わたしは、目を閉じ、心の中で呼びかけた。 ありがとう。ずっと見ていてくれたんだね。ありがとう。わたし、あなたと出会えて、 ほんとうに良かった。でも・・・ もう行くね。あの人が、ホームベースの向こうで、私を待っているから。 わたしは振り切るように、ホームベース方向へ顔を向ける。・・・と、相棒のなにやら心 配そうな表情が、マスク越しにも見て取れる。 「まったく・・・」 そんなことでいいの? バッテリーなんだからさ。信じてよ。・・・ううん。気付いてよ。 わたし、ずいぶん前から、あなたの「サイン」しか見てないんだよ。 あなたの方しか、見てないんだよ。 たまにスタンド見たからってさ、そんな顔しなくったっていーじゃない。 その彼からサインがくる。誰にもわからない。彼とわたしだけの会話。 初球は・・・インコース低めに「るりかボール」。 ・・・うん。わかってるよ。気持ちもボールも全開で行くからね! わたしは小さくうなずくと、ボールをグラブに納めて、セット・ポジション。 第一球を、彼のミットめがけて、力いっぱい、投げた。 『dandelion』by nanase aikawa |
あとがき
| エピローグ 長老のあとがき 「るりすと」Wのエピローグ。そして同時に「るりスト」シリーズのエンディングです。 本当に長い話を読んで下さり、ありがとうございました。 いえ、全部読まずにここをご覧なっておられても、それはあなたのせいではありません。 そもそも、この話が長すぎるのです。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 事実は小説より奇なり。 とはいいますが、昨年末のプロ野球とスポーツ界の激動は長老の想像を超えておりまし た。 どのくらい超えていたのかというと、それまで考えていた筋書きがぶっとんで、さらに 半年ぐらい再起不能になるくらいです。(言い訳) Dの若手捕手が突然、シドニーオリンピックの日本代表に選ばれたり、東京ドームで冗 談のようなサヨナラゲームをくらってしまったり、さらに日本代表がメダルを逃したりと。 今回のお話でさんざんるりかと主人公を「これでもかこれでもか」といじめ倒してきた 長老がいうのもなんですが、ここまでの逆境はないのではないかという、シーズンでした。 でも、考えようによってはこれが理想のラストなのかもしれません。最近、やっとそう 思えるようになりましたので、「るりスト」のラストは沖縄の青空の下で二人がオープン戦 を戦っているシーンにしました。 一度や二度の失敗でめげてはいけません。倒れない人生よりも倒れても立ち上がる人生 の方が、たぶん、生きてて楽しいです。そういう意味では(ここまで遅くなって、ずうず うしい言いぐさですが)ゆっくり書いて良かったのかな、とも思います。 最後の最後まで、ありがとうございました。 特にKAZさんにはいつもお世話になりました。こんな無茶なモノを載せてくださる上に いろいろご配慮をいただき、感謝感謝です。 次ぎに何か書くとしても、絶対短い話にしようとおもいます(笑) 長 老 頓 首 |
