〜Present for you〜
第2話「バイトデビュー」



「う〜ん…気をつけてるんだけどなぁ…」

『だったら、もっと気をつけなさいよ、ただでさえよく転ぶんだから…』

「うん、ありがと。」


 そんな会話をしているうちに麻衣のバイト先に着いた。

「マスター、連れてきましたよぉ」

 麻衣がドアを開けカウンターにいる男性に向かって声をかけた。

「おぉ、麻衣ちゃん、その子が遠藤さんだね。」

 マスターと呼ばれた恰幅のいい男はカウンターから出てきて挨拶した。

「はじめまして、この店の店長の永瀬(ながせ)です。」

『はじめまして、遠藤晶です、よろしくお願いします。』

「まぁ、みんなから僕はマスターって呼ばれているけどね。」

 簡単な自己紹介を終えたところを見計らって、麻衣が私の腕を引っ張った。

「あきら、こっちだよぉ」

 そう言われ連れられたのは、お店の奥の部屋だった。

「まず、これに着替えてね。」

 手渡されたのはこの店のユニフォームだった、といってもチェックのエプロンだけ
だったけど。
私は手早く制服の上からエプロンをかけて準備をした。
麻衣も手馴れた手つきでエプロンをつけて、その後何故か麻衣は眼鏡をかけた。

『麻衣、あなた目悪かったっけ?』

「ううん、目は悪くないけど、ここって学校の近くでしょ?だから一応変装しておこ
うと思ってね。」

 確かに麻衣の言うとおり、ここは学校からさほど遠くなく、店内に誠女の制服姿の
生徒が結構いる。

「晶も何かしら変装しておいたほうがいいよ、ばれたら大変だもんね。」

 そう、誠女は規則上バイトは禁止なのだが、巡回などはほとんどしていないので、
意外とクラスメートがバイトしている話をよく聞いていた。

『そうね…じゃあ私は…。』

 そう言って私はおもむろに頭に巻いているヘアバンドをはずして、長い髪を後で束ねた。

『これでどうかな?』

 麻衣は私をぼうっと見ていた。

『…変かな?』

「…そんなことないよ、別人みたいだし、かっこいいよ。」

『そう?ふふっ、ありがと。』

 その後麻衣から簡単に仕事の内容の説明を受けた、要は喫茶店のウエイトレスなん
だけど、麻衣曰く

「たまーにナンパされるから気をつけたほうがいいよぉ」

といわれた、そういうヤツはいつも通りに適当にあしらえばいいけど。


 こうして、私の初バイトが始まった。 最初はカウンターの中にいて、麻衣の仕事
を見ていた。
流石慣れているようで、注文を受けたり終わった食器の片付けなどを手早くやってい
て、学校にいるときのドジな麻衣とは別人のように思えた。
そのうち麻衣から

「こんな感じだよ、最初はゆっくりやればいいからね。」

といわれ、私は注文聞きにでた。
トレーに二つ、水の入ったコップを乗せてお客さんのいるテーブルへもっていく、一
見簡単そうだったけど、すごく緊張する、このコップを落としたりしないようにと思
うと余計緊張する。

『いらっしゃいませ、ご注文は?』

 最初のお客さんは、社会人風の男性が二人だった。

「ホットコーヒー2つ」

『かしこまりました。』

 そう言ってお辞儀すると、カウンターへ戻りマスターに注文を伝えた。


 1時間ほど同じような作業をして、ようやく慣れてきて、聞きにいくタイミングと
かが分かってきた。
1時間の間でもいろんなお客さんがいて、それぞれいろんなものを注文してくる、ま
た喧騒とした店内ではいろんな話が聞こえてきた、会社の商談をしていたり、学校で
あったことを話していたり、何気ない雑談だったり、それに程よい音量で流れている
BGMが加わって、とても優しい空間だった。


 そうこうしているうちに1日目の仕事が終わった。

「おつかれさま、どうだった?」

『そうね、楽しかったわ、仕事も分かってきたし。』

 本当に楽しかった、ヴァイオリンを弾いているときとは違った疲労感と充実感、
それがすごく楽しかったし、何より気持ちよかった。

「うんうん、そっか、よかったよぉ」

『じゃあ、また明日に、お疲れ様でした。』

「おつかれさまでしたー」

 私たちはマスターに挨拶をして、それぞれの家路についた。
初めてアルバイトを終えてアイツの苦労が少しだけ分かったような気がした。
今度アイツが長崎に来たとき『いつも来てくれて、ありがとう』って言ってあげよう。
その日、私はベッドに入るとすぐに眠ってしまった。

つづく。






榊晶さんあとがき

というわけで、第2話をお送りしました。
今回は晶様が初めてアルバイトをしてみるところを描いています。
人一倍努力家で、照れ屋な晶様(榊の中で晶様はそんなイメージです。)のバイトは
どんな感じになることやら…
それではまた次回でお会いしましょう!



〜今日のお話〜

 榊 晶さんより、晶の小説を頂きました。
今日からいよいよ晶のアルバイトが始まります。
流石は晶、仕事は要領よくこなしているようですね。
今日のお話は起承転結の「承」といたところでしょうか。
はてさて、この後のお話はどんな話になるんでしょうね。
お楽しみに。



(2000/10/10)




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