8月の・・・




 「暑いな・・・」
部屋の中で一人、僕は呟いた。最悪だ、こんな時にクーラーが壊れるなんて・・・。8
月ももう終わりだというのにこの暑さ。どういうことだ、猛暑にもほどがあるぞ・・・。
 結局僕は一浪して東京の大学に入学した。入学すると同時に親元を離れて一人暮らしを
始めた。親は、「今まで自分の仕事の都合でお前に迷惑をかけた」と言って、あっさり許し
てくれた。おかげで有意義に一人暮らしをし、大学に通いはじめ、はや2年近くたった。
その大学も今日は授業スケジュールからして休み。自室の窓から外を見てみると、太陽に
赤みがさしていた。
 「・・・もう4時か・・・」
 暑さで唸って部屋でゴロゴロしていたら、いつの間にかそんな時間になっていた。
 「晶はどうしているかな・・・」
 ふとそんな事を思った。晶は高校を卒業すると同時にオーストリアへ音楽留学をした。
そして今は日本に戻ってきて、東京の音大に通う一方、演奏会も開いている。本人は「プ
ロじゃないわよ、セミプロよ」と言ってはいるが世間からの評価は高い。
 「そう云えば雑誌に載っていたな」
 思い出したように僕は近くにあった情報雑誌に手を伸ばした。大きく取り上げられてい
るというわけではなかったが、海外の評価も高いというようなことが記事には書いてあった。
 「やっぱりこれだけ噂になるとまた外国へ行くようになるのかな」
 ふとそんな事を思った。3年前のあの日、空港で晶を迎えにいったあの日、自分の気持
ちを正直に伝えたあの日・・・。それから2年経って久しぶりに会った時の嬉しさ。
そりゃあ電話や手紙はしていたけどいざ会うってなると違うものだ。
 「いなくなっちゃったら・・・か・・・」
 僕は暑いのも忘れてそんなことを考え始めた。
 (いなくなるってことはないか。外国へ行っても同じ地球の上にいるんだから、会おう
と思えばいつでも会えるか。でも・・・もし違うモノになってしまったら・・・犬とか猫
とか・・・植物とか・・・こりゃどうあがいてもな・・・そんなことになったら僕、泣く
んだろうな・・・でも本当にそんなことになったら面白いかも・・・他の人に話のネタと
して振っちゃったりして・・・)
 そこまで考えたときふと我に返った。いつの間にか外はもう太陽が沈みかけていた。僕
は何か気まずいというか、申し訳ないというか・・・そんな思いに満たされた。そして思
わず自分の携帯電話に手を伸ばし、かけなれた相手へと電話をかけていた。
 「もしもし?」
 僕はそっと携帯に向かって声をかけた。
 「もしもし、なーに、どうしたの?」
 晶だ、ディスプレイの番号で僕からだと分かったようだ。
 「あ、うーん、そのー、今暇?」
 僕は恐る恐る声をかけた。何でだろう、さっき思っていた事が晶にばれているような感
じがした。
 「そうね、もうちょっとしたらこっちの方が落ち着くから、それからならいいわよ」
 『こっちの方』とはおそらく学校のことだろう。僕は食事に誘った。何故か分からない。
晶は「なーに?あなたからお誘いがあるなんて珍しいわね。何かあったの?」と僕の気持
ちをまるで見抜いているかのように訝しげにそう言ったあと、いいわよと言った。僕等は
時間と場所と約束すると電話を切った。息をつくと僕は緊張していたことに気がついた。
後ろめたかったのだろう。冗談でもあんなことを考えたのだから。僕は日が沈んでも暑い
自分の部屋でしばらく時間を潰した後、晶との待ち合わせ場所へ向かった。
 待ち合わせ場所は電車で4つ隣りの駅にある喫茶店にした。ここはよく晶と待ち合わせ
るのに使う場所だ。外は思っていたより暑くなかった。おそらく僕の部屋の風通しが悪い
のだろう。かといって部屋中を開けっ放しにするほど無防備でもな・・・と考えている内
に待ち合わせ場所に辿り着いた。中に入って30分ほどすると晶が来た。やはり学校の帰
りなのだろう、手にはヴァイオリンをいれたケースがあった。僕等はすぐに場所を移動した。

 「これをもって食事にいかせるつもり?」
 喫茶店から出ると晶はそう言って手にあるヴァイオリンを僕に見せた。
 「まさか」
 僕は苦笑すると晶の手からヴァイオリンを預かった。そして、駅前のコインロッカーに
それをいれた。コインを入れ終わると晶が「どこで食べるの?」と言って腕を絡めてきた。
僕は思いあたるレストランに晶を連れて行くことにした。
 食事が終わると僕は注文票をレジに持って行き、精算した。
 晶は「自分の分くらい出すわよ」と言ったが、僕はそれを制してレストランから出た。
店をでるとすぐに僕は「家に来ない?それが嫌なら散歩でもいいよ」と晶に言った。晶は
不思議そうな顔をして「どうしたの?」と聞いてきた。「後ろめたいから」と言うわけにも
いかず、「うん、いや、別に・・・ほら、月が綺麗だし」と苦し紛れな事を言うことしか出
来なかった。それから僕等はその街の少し高台にある公園に足を向けた。さっき家に誘っ
たはいいが、クーラーが壊れていた事を思い出したからだ。いくら夜になってすごしやす
いといっても夏は夏。クーラーなしはちょっと・・・。
 公園のベンチに2人で腰をかけた。晶は最近の学校の事、演奏会が近々あること、友達
の事を僕に話してくれた。相変わらず話の主導権が晶にあるような気がしたけど、僕はそ
れが好きだった。僕は不意に晶の手を握った。晶は少し驚いたようだったが、手を握り返
してきてくれた。
 「なぁに?どうしたの?今日は変よ」
 笑いながら言う晶のその言葉に僕はうんとうなずいた。そして「好きだ、晶」と言った。
晶はビックリしたようだったが、「し、知ってるわよ。そんなことぐらい・・・」とあわて
るように言ってそっぽを向いてしまった。
 今日の月は口から出任せじゃなく、本当に綺麗だった。その月の明かりできっとあらゆ
るものも綺麗にみえるんだろう。
ねぇ、だから今日は長話をしようよ。後ろめたいせいもあるけど、やっぱり好きな人と
はずっとムダ話をしていたいんだ。
隣りの、困った顔をしている晶を見ながら僕はいつの間にか笑っていた・・・




〜月の裏で会いましょうさんあとがき 〜

う はじめてSSというものを書かさせていただきました。SSにしては少し長いか・・・。
やはり文を書くということは難しいですね・・・つたない文章で申し訳ありません・・・

 今回の物語の題材はピンときた方もいるかもしれませんが、ある歌を元ネタにしました。
歌手のイニシャルは『S・S』です。文の題名もそこから・・・。その歌を聴いて浮かんできた
世界観というのがなんとなく『センチ』っぽいなと自分の中で思ったもので・・・。
この話のヒロインは『晶』しかいないという勝手な見解で選びました。
 僕は今だ『2』の方をやっていないので、作品中の『僕』は『1』の主人公ですね・・・

 「せつない」というよりかは「幸せな世界にいる2人」の世界を感じていただけれ
ばこれ幸いです・・・



〜今日のお話〜

もう何も言うことはないとばかりに、読んでるこっちが恥ずかしくなってしまいました。
二人は互いのことを思いあっているようですね。それが一番です。



(2001/09/29)




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