本当に何でもなかったんだね
| 「あ、誰かと思えば亥斗(かいと)じゃん!久しぶり!」 誰だ?と思って向かいの人を見ると高校時代、同じクラスメイトだった『山本るりか』だった。 「あ、あぁ…」と、僕は曖昧な返事をしてもたもたと向かいの席に座った。 その日僕はやることもないので、適当に駅周辺をブラブラすることにした。長かった夏休みも後半にさしかかり、新学期がはじまろうとしていた。夏も終りに近づき、暑いことは暑かったが、嫌な湿気感はなかったのでまだ過ごしやすかった。(本屋で雑誌でも買ったら服でも見てみようかな)と漠然と考えていたら突然ドシャブリに出くわしてしまった。バイト料も入っていたので、僕はそこら辺の喫茶店に入る事にした。持っていた雑誌が濡れてしまうのも嫌だったからというのもある。雨宿りしたらさっさと出ようと思っていた矢先、喫茶店の中でるりかと出くわしたのだ。突然のドシャブリだったせいか店の中は結構な人の数だった。 「(ちっとも元気であるわけないよ…)あ、そ、そういやぁ、るりかは東京の大学に行ったんじゃなかったっけ………あ〜、夏休み?」 僕はあやうく声に出そうになるのを我慢して、とりあえず間を持たすために言葉を繋げた。るりかは夏休みだから名古屋の実家に戻ってきていて、今日はこれから彼氏とデートだからここで待ち合わせをしているのだと言った。彼氏とはおそらく噂で聞いた東京のあいつのことなのだろう。 「なんや、わざわざ東京から来るのか?」 「ううん、違うよ。名古屋のユースホテルスに泊まってるんだよ。」 と言った。その後僕が聞いているのか、いないのかお構いなしの様子で、家に泊まればいいと誘ったとか、この夏二人で海に行ったということを話していた。まぁしっかりきいている僕も僕だが… 「上手い具合にいってんじゃん」 僕がるりかと話していたところを見ていた涼子にそう言われて「んなことねぇよ」と言いつつも悪い気にはならなかった。 涼子には夏休みに入る前頃に、僕がるりかが好きなことを態度でばれてしまっていた。まぁ、なんとはなしにるりかに近づいていったりしていたのは紛れも無い事実なのだから、今思えば、ばれてもしょうがないといっちゃあしょうがなかった。涼子には「仲とりもってあげようか?」とか「あの娘よく…」とからかわれていたような気がする。僕はといえばるりかに近づき、気を引こうとなにやらやっていたのを覚えている。『なにやら』というのだからたいしたコトではないのだろう。まぁそれなりにるりかの気を引こうと頑張っていたということを覚えている。 そんな毎日を送っていたが、卒業を目の前にするとなにやら脅迫観念というのだろうか、(何かせにゃあ)という気持ちにさせられたのを覚えている。受験勉強のかたわら、そんなもんに捕らわれているのだから余裕があったもんだ。涼子には「やっぱり告白ね」「上手くいってんだからなるようになるわよ」などと言われた。(そんなこと言われんでも)と思っていたがやっぱり『けじめ』というのだろうか、そんなようなもんにケリをつけたかった。そして卒業式に言われた言葉は、 「ごめんね」 るりかがそう言ってうつむいていたのを覚えている。一緒に遊びに行ったりしていたことを思い出すと「なんでじゃーっ!!」という気持ちでいっぱいにさせられたが、しかたないかという気持ちも片方ではあった。あとで噂に聞いたことなのだが、るりかには好きな人がいた。 「あ、こっちこっち!」 るりかは店の入り口に向かって呼び声をあげた。 見るとビニール傘を持ってキョロキョロと店内を見回している男子がいた。(あいつが彼氏か…)そう思っていると、男子はこっちのテーブルに向かって歩いてきた。るりかはおそかったじゃんと男子に言うと僕にその人を紹介した。その後、「とってもいい奴なんだ」とるりかは楽しそうに彼に僕のことを紹介した。そう言われたので思わずいい人をやってしまった。外が雨のせいか二人はしばらく僕と同じテーブルで話していた。さっきるりかが海へ行ったと言っていたが、二人ともいい色に焼けておそろいだった。 (するってーと僕は妬けもしない立場か?)なんてくだらない事を考えて一人で苦笑した。 僕はるりかにふられて、るりかをさけていたんだけど…るりかは僕をふった事を忘れているのだろうか…そうならちょっとショックだ………… 「でもそんなことないでしょ…ねぇ亥斗」 そんなことを考えていたところにるりかは突然話をふってきた。僕は驚いて思わず水をこぼしてしまった。最悪なことにこぼれた水が僕の右前に座っていた彼にかかってしまった。僕は店員さんに布巾をとってきてもらうようお願いして、手持ちのハンカチで彼にかかった水をふきとった。僕はといえばしきりに「ごめん」としか言えなかったが、彼は笑って「いいよ、いいよ。気にしないで」と笑顔で答えてくれていた。ちくしょう、お世辞抜きでいい奴じゃないか。 そんな事をしているうちに外には晴れ間が射していた。るりかの彼氏は「また会えるといいね」と言い、二人はそれじゃあと席を立って店から出て行った。店の窓越しに二人を見ると楽しそうにしながら駅の方へと向かって行った。 なんでも…本当になんでもなかったんだね…………………気付くと僕はまだ自分のオーダーしていたコーヒーがきていないことに気付いた。(あー、なんかさっきの状況と同じやな…僕がいることも忘れられてんのか…)。ついていない。この状況はなんなんだ…。僕はコーヒーをもう一度注文しなおしてから買っておいた雑誌に目を通した。するとテーブルを軽く叩く音がした。僕は何だろうと思って見上げると涼子がいた。久しぶりに…といっても涼子は地元に残っているので、ちょくちょく顔は合わしていた。涼子曰く、店からるりかとるりかの彼氏が出てくるのを偶然見かけて、出てきた店の中を見ると僕がしょんぼりと(そう見えたらしい)すわっていたそうな。僕は涼子にさっきあったことをなるだけおもしろおかしく話そうとした。涼子は所々笑って聞いていたが、ふと「あの時…亥斗が告白に失敗したの…もしかしてあたしのせいかな」と言った。 「そんなことはないよ。なるようにしてなった…といったやつかな」笑いながら僕は、雑誌を袋に入れなおすと立ち上がった。涼子と一緒に外に出ると不意に涼子が「これからどっか行こうか?」と言ってきた。 「これからってってもなぁ…どっかある?」僕がそう言うと、「私、車の免許とったんだよ」と涼子は得意げに免許証を見せてきた。免許証を見ると発効日からまだ一ヶ月ちょっとしか経っていなかった。僕は少し考えてから「面白い、行こう!」と言った。涼子は嬉しそうに僕の手を握ると自動車がある自分の家の方へと僕を引っ張っていった。 |
〜 月の裏さんあとがき〜
| 今回はるりかの(るりか関連の)小説を書いてみました。人によってはるりかのイ メージ、態度に疑問を持つ人もいるのではないかと思います…。けして僕はるりかが 嫌いなわけじゃないんですよ、ホント。 最初はるりかとその彼氏(ゲームの主人公)が店を出ていくところで終りにしよう としていたのですが、僕はハッピーエンドが好きなのと、オリジナルキャラの涼子の 心情をこれを書いていくうちに考えてしまったわけで…まぁこういうオチになったわ けです。 しょぼしょぼの文章ですが読んでいただければ嬉しく思う次第です。 また元ネタはある歌手からとらせてもらいました… |
| 今の時期の、夏の終わりにぴったりな物語ですね。 蝉がみんみんと鳴いている中、一人庭先でぼうっと考えごとをしているときのように、 普段と違う、なにかが起こる予感がするときような、そんな感覚を感じました。 |
