ある平凡な一日



カーテンの隙間から朝の光がこぼれてくる。
目覚まし時計が電子音を響かせると布団がモゾモゾと動き、やがてそこから手がゆっくりと伸びてアラームを止めた。
布団の中であいつはひとつ伸びをすると起き上がった。
大きく欠伸をしながら寝癖のついた頭を掻きつつ、あいつは部屋を出て階段を降りて行った。飽きるくらい見続けた、いつもと同じ朝の風景だ。

しばらくするとあいつは部屋に戻ってきて、鞄を取って部屋を…出ないぞ…?
何やってんだ?と思っていると、あいつは部屋の掃除を始めた。
朝っぱらから珍しいな。雨でも降るんじゃないか…?…よく晴れてるよな…。
やがてあいつは掃除を終え、ちょっと満足げに部屋を見回すと外に出て行った。

窓から陽が差し込んで、時が経つにつれ部屋はポカポカと暖かくなった。
時々外を通る車の音がするくらいで静かだ。
眠い…こういうのを幸せって言うんだろうな。
俺がまどろんでいると、階段を上がる足音が聞こえた。あいつが帰ってきたみたいだ。
いつもと比べるとずいぶん早い帰りだな。それに足音は…二人だ。

「さあ、入って」
「おじゃまします」

あいつは女の子と二人で戻ってきた。
あいつがまだ小さかった頃は女の子が遊びに来たこともあったけど、最近はこんなことは珍しい。
その女の子は部屋を見回して言った。

「思ったより綺麗に片付いているのね」
「まあね。もっと散らかっていると思ってた?」
「うん、だって男の子の部屋ってそういうものだって思っていたから」

あ、だからあいつは朝から部屋を片付けていたんだな。
あいつがお茶を入れに下に降りると、その女の子は珍しそうに机の上の物や本棚を眺めて、やがて近づいてくると俺を覗き込んだ。
…この娘…前に会ったような気がするな…いつ会ったんだっけ?
と、あいつがお茶とお菓子を持って戻ってきた。

「ほのかぁ、ちょっとドアを開けてくれる?」

その声を聞いて女の子はドアへ向かった。
ほのか…?…そうか、あの時の娘だ。もうかれこれ8年くらいになるのかな。
この娘もあの時と比べたらずいぶん大きくなったけど、確かに面影は残っている。

あいつとこの娘――ほのか――はお茶を飲みながら話をしたり音楽を聴いたりしていた。
と、ほのかが俺の方を見て言った。

「あれ、まだ持ってたのね」
「ん? ああ、ほのかが選んでくれたんだったね、そう言えば」

あいつも俺の方を見ると昔を思い出したんだろう、懐かしそうに少し目を細めた。

やがて陽が傾いて部屋がオレンジ色に染まる頃、あいつはほのかを送って部屋を出て行った。部屋に静寂が戻った。
時が経つにつれ、部屋に差し込んでいた光が力を失い、辺りがみるみる薄暗くなっていった。

すっかり陽が暮れ落ちた部屋にあいつが戻ってきた。
あいつは部屋の電気を点けると音楽を聴きながら、机で雑誌を読んでいた。
と、あいつの携帯が鳴った。

「はい…あっ、ほのか?…うん、そうだよ…うん…うん…いや、それはね…」
・・・・・・・・・・
「うん…じゃ、また明日…おやすみ、ほのか」

あいつは携帯を切ると一つ伸びをして布団に潜り込んだ。
電気が消えて暗くなった部屋の片隅、本棚に置かれた小さな瓶の中に相変わらず俺は居る。
俺は北海道生まれの養殖まりも。
札幌のお土産屋の棚からほのかに選ばれて、この部屋の主であるあいつと一緒に北海道を離れて、もう8年になる。



終り







〜 梅小路久彦さんあとがき〜

「共通の友人から見た二人」ほのか編・第二部(変形バージョン)です。…って、どう見ても「友人」じゃないよな…。

この話は昔北海道を旅したときに買って本棚の片隅に鎮座している養殖まりもを見ていて思いつきました。
実際は札幌じゃなく、新千歳空港のお土産屋で買ったんだが…札幌市内でも手に入るでしょう、多分(笑)。
しかしタイトル通り、平凡きわまりないお話でちっともせつなくないですな(苦笑)。




〜今日のお話〜

ちょっとちょっと、ちょっと聞いてくださいよ!奥さん!
今日のお話は「まりも」ですよ、「まりも」!
いや〜、最期まで読むまで、この語り部はいったい誰なんだろうと首を傾げていました。
梅小路さんのアイディアに脱帽です。
語り部の視点がとても面白かったです。「これは一本、取られたかな」ってなもんですよ。

 それにしても、今回のお話、せつないような嬉しいような、そんな微妙な雰囲気を感じますね。
いやはや、なんとも感服いたしました。また、面白い小説を送ってくださいね♪
今日は素敵な物語をありがとうございました♪



(2002/02/17)




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