〜 花王・愛の劇場〜

『雨上がりの虹』 第八話/全二十四回



題:『恋の路は修羅道か仏の道か』    Illustlation/ちねさだ様

日も沈み、夕闇迫る刻、若菜は京都屈指の魔界・貴船神社前に立っていた。



〜 花王・愛の劇場 : 『雨上がりの虹』 第八話/全二十四回 〜


◎先週までのあらすじ
初恋の相手、KAZと八年ぶりに再会した若菜。
ようやっとこの世で再び会うことができた、今日、このときから私の一番幸せな刻が始まる。これが私の定めと若菜は心舞い上がっていたが、
彼、KAZの口から出てきた言葉は若菜の心を凍てつかせるにはあまりあるものだった。

KAZ:「俺、婚約者がいるんだ。今度、若菜にも紹介するよ!若菜も僕達の結婚式には来て、俺達二人のこと、応援してよ♪」

すっと気が遠くなり、あたりの景色や人がまるで見えなくなる。
その日の晩、若菜は一睡もできなかった。
夜通し泣きとおすかと思ったが、不思議なことに涙は出なかった。
「涙で枕を濡らす」と云うが、心の底から悲しいときには涙は出ないものだと若菜は悟った。

翌朝、京の洛北地域、空気の澄んだところにある紫雲女子高等学校。
校門前で迎えの車を返した若菜は、何故か校門にくるりと背を向け、すっと歩み始める。
今日この日まで学校を休んだことなど一度たりとてなかったが、今日、はじめて自分の意志で授業を受けなかった。

何処をどう通ってきたのかまるで覚えていない。ふと気がつくと何故か貴船神社の前に立っていた。
此処、貴船神社は京の都の最北端、鞍馬山の山奥にあり、京都屈指の魔界、丑刻詣の本場でもある。
若菜はKAZと彼女、二人が不仲になるよう祈祷しようと決心し参道を上る。
参道を一段、また一段と、一念、ただそれだけを胸に参道を登りゆく。
そのとき、見るからに幸せそうなカップルが参道の上から下りてきて、若菜の脇を通り過ぎた。
二人の行く末に福あらんようにと願掛けにきたのであろうか。二人ともとても幸せそうに見える。
何故かそのカップルのことが気にかかり、さらりとふりむく。山間地特有の冷ややかな風が髪と髪の間をすり抜ける。
そのカップルが参道を下り見えなくなってもまだ、若菜はそのままじっと参道を見下ろしていた。

      ・・・そう、なにもKAZと彼女が不仲になるよう祈る事はない。
今さっきのカップルのように、自分がKAZと結ばれればそれでよし。あとは自然と・・・。
くるりと踵を返し、若菜は貴船神社を後にする。
目指すは東山にある縁結びの神様、地主神社。若菜は己のあまりの心変わりの早さに驚き、笑みを漏らすが、
心の内はもうすでに絵馬に託す文のことでいっぱいだった。





「続きはまた明日」











さて、今日のお話は如何なものでしょうか?
今日も昼メロテイストいっぱいですよ。
前の小説、KAZと晶の新婚生活から半年ほど前の話をイメージしております。
ちょうど、KAZと晶が結婚する前。若菜と晶、そしてKAZが三角関係になるときのお話です。

今日のイラストはちねさだ様から頂きました!おおきにです〜♪
彼女が何を想って振向いたのか、その瞳が見つめるものは何なのかと思いを巡らせているうちに、この話ができてしまいました。
日本広しと云えど、若菜に丑の刻詣でをさせようなどと考えつくのは私くらいのものでしょう。

でも、驚くことなかれ、この貴船神社の話は、実話なんですよ!
かの有名な安部清明も、鬼女の呪いに憑かれた浮気男を助けたという伝説が残っています。


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浮気する男を呪詛するため丑の刻(午前二時ごろ)参りする女。たどり着いた貴船の宮、想いの苦しさに鬼となりだし、
言うより早く、逆毛立ち恨みの鬼と化して帰宅する。
異変を感じ陰陽師・安部清明(あべのせいめい)のもとに走る夫。死期は迫り等身の人形、五色の御幣、供え物にて
諸神諸仏を一心不乱に祈りこめる。たちまちに雷鳴轟き御幣は揺れてたち現れる女の生霊、橋姫の登場である。
赤き顔、赤き衣を身にまとい、頭上に三本足の火を灯した鉄輪をのせる。

『恨めしや御身と契りしそのときは、玉椿の八千代、二葉の松の末かけて、変わらじとこそ思いきに、
捨てられて思う想いの涙に沈み、あるときは恋しく、または恨めしく、起きても寝ても忘れぬ想いの因果は今とぞ
白雪の消えなん命は今宵ぞ痛わしや。
かきくどき男を責めさいやみ、命をとらんとしたそのとき、三十番神がたち現れて、たちまちに神通力は失せ、怨念の鬼女は退散す。』

謡曲「鉄輪」 / 室町時代後期

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人の恋路は思い通りにならぬものです。白川上皇は「余の思いにならぬは鴨川の水〜」と詠いましたが、
私はここに人の恋路もつけくわえておこうかと思います。





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